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M&Aの現場

会社を譲ったら、社員はどうなるのか

譲り方で変わる雇用の扱い

IN BRIEF

  1. 雇用の扱いは譲り方で変わる。株式譲渡は雇用主の会社が同じまま、事業譲渡は社員ごとの承諾が前提になる。
  2. 待遇は譲渡契約で約束される場合がある。ただし書き方は個別の契約ごとに違い、条文を読むのは専門家の領域。
  3. 社員に伝える時期は、最終契約の前後で段取りを組む。早く漏れて頓挫すると、退職や取引先の喪失のおそれがある。
CONTENTS4の見出し
  1. 譲り方で、雇用の扱いは変わる
  2. 事業譲渡では、社員一人ひとりの承諾が前提になる
  3. 待遇は、契約でどう約束されることが多いか
  4. 誰に、いつ伝えるか

聞き手

会社を譲ることを考え始めて、いちばん気になるのが社員のことです。譲ったあと、社員はどうなるのですか。雇用は守られるのでしょうか。

アドバイザー

「必ず守られる」とも「守られない」とも、一般論では言えません。雇用の扱いは、会社をどういう方法で譲るかで変わります。今日は、その仕組みと、社員に誰へ、いつ伝えるかを、売り手が判断する順に見ていきます。労働法に関わる部分は、個別の結論を出さず、公的な文書の記述を紹介する形にします。

譲り方で、雇用の扱いは変わる

譲り方で雇用の扱いは変わる。株式譲渡は変わるのは株主、事業譲渡は社員ごとに承諾、会社分割は法律の手続きがある

聞き手

譲り方というと、株を売るか、事業を売るか、ということですか。

アドバイザー

そうです。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は、実務では株式譲渡か事業譲渡が選ばれることが多いと書いています。ほかに、会社分割や合併といった方法もあります。株式譲渡は、経営者などの株主が株式を譲る方法です。事業譲渡は、会社が自分の事業を譲る方法です。

聞き手

社員にとっては、何が違うのですか。

アドバイザー

株式譲渡では、同じガイドラインが、譲り渡し側の法人格に変動はないと説明しています。社員が雇用契約を結んでいる相手は、同じ会社のままです。変わるのは株主です。一方で事業譲渡は、事業を別の会社へ移すので、社員の雇用契約をどう扱うかが問題になります。

譲り方 雇用契約を結んでいる相手 公的な文書の記述
株式譲渡 同じ会社のまま。変わるのは株主 法人格に変動はない(中小M&Aガイドライン)
事業譲渡 譲り受ける会社へ移すなら、社員の個別の承諾が必要 厚生労働省の指針、民法第625条第1項
会社分割 法律が定める通知と手続きに沿って承継される 労働契約承継法
合併 存続する会社などに包括的に承継される 厚生労働省の指針

聞き手

事業譲渡は「社員ごとの承諾」とのことですが、会社が決めれば社員も移るわけではないのですか。

アドバイザー

ここが、この記事でいちばん押さえてほしい点です。次の節で、原文を読みながら話します。

事業譲渡では、社員一人ひとりの承諾が前提になる

アドバイザー

まず民法です。第625条第1項は、「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」と定めています。会社が社員に対して持つ権利を、社員の承諾なしに別の会社へ渡すことはできない、という意味です。

聞き手

厚生労働省の指針には、どう書かれているのですか。

アドバイザー

事業譲渡の指針は、権利義務の承継の性質は個別の債権者の同意を必要とする特定承継だと説明します。そのうえで、労働契約を譲り受ける会社に承継させる場合は、承継予定の労働者から個別の承諾を得る必要がある、としています。

POINT

事業譲渡で、社員の承諾を得るときの指針の要点

  • 承諾を得るときは、真意による承諾が得られるよう、事業譲渡の全体の状況や、移った先の会社の概要と労働条件を十分に説明し、協議を行うことが適当とされている
  • 労働条件を変えて承継させるなら、その変更についても本人の同意が必要とされている
  • 承諾までに十分な協議ができるよう、時間的な余裕をみて協議を始めることが適当とされている
  • 意図的に虚偽の情報を伝えて承諾を得た場合は、本人があとから承諾を取り消しうる、とされている

聞き手

社員全体への説明は、どうなるのですか。

アドバイザー

指針は、労働者の過半数で組織する労働組合があればその組合、なければ労働者の過半数を代表する者との協議などで、雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めることが適当だとしています。説明する内容の例として、事業譲渡を行う背景や理由、承継予定の労働者の範囲などが挙げられています。個人への承諾の取り付けとは別に、全体への説明も、努める事項として示されているわけです。

聞き手

承諾しない社員は、解雇されるのですか。

アドバイザー

指針は、承諾しなかったことだけを理由にした解雇などで、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないものは、労働契約法第16条により権利の濫用として認められない、と書いています。そのうえで、こうした場合には、会社に雇用関係を維持するための相応の措置が求められる、とも述べています。具体的な事案で解雇が有効かどうかは、私が判断できる範囲ではありません。弁護士や社会保険労務士にご確認ください。

聞き手

会社分割という方法もあるとのことでしたが、それはどうなるのですか。

アドバイザー

会社分割には、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」という専用の法律があります。承継される事業に主として従事する社員は、分割契約などに承継する旨の定めがあれば、分割の効力が生じた日に、承継先の会社へ承継されると第3条に定められています。対象となる社員への書面での通知や、承継の定めがない社員が異議を申し出る機会も法律に書かれています。この法律のあてはめは専門家の仕事なので、仕組みの紹介にとどめます。

雇用の扱いは、会社をどういう方法で譲るかで変わります。

待遇は、契約でどう約束されることが多いか

聞き手

給与や退職金、就業規則は、譲ったあとどうなるのですか。

アドバイザー

一般論として、譲渡の契約でどう約束されるか、という話になります。ガイドラインは、最終契約で取り決める主要な内容の一つに、経営者や役職員の処遇を挙げています。例として、経営者の引継ぎ期間や、従業員の雇用継続の努力義務を設けるかどうかが書かれています。約束するかどうか、どう書くかは、売り手と買い手の交渉で決まります。

聞き手

譲ったあとに、一斉に解雇されることもあるのでしょうか。

アドバイザー

ガイドラインは、実行後に従業員の一斉解雇が行われるケースは多くないと言われる、と書いています。ただ、売り手が処遇を気にする点は、M&Aの促進を妨げる要因になっているおそれもあると指摘しています。そこで、買い手の経営者が売り手の幹部に高圧的でなく、自社の役員や従業員と同じように接する姿勢かどうかを、確認しておくことが考えられるとされています。

聞き手

就業規則や給与の体系は、どう扱われますか。

アドバイザー

ガイドラインは、事業譲渡の場合に必要になる引継ぎ作業の例として、給与体系や就業規則などの人事労務関係の統一を挙げています。統一のとき、条件がどう変わるかは、契約と個別の同意に関わります。架空の例で考えます。従業員25人の会社が、25人全員の雇用契約を事業譲渡で別の会社へ移すなら、承諾を取る相手は25人です。この数字は、わかりやすくするための架空の仮定です。

聞き手

税金や退職金の支払いは、どう考えればいいのですか。

アドバイザー

退職金の扱いや税額は、私が言える範囲ではありません。税理士と社会保険労務士にご相談ください。次は、売り手が一番悩む、社員にいつ伝えるかの話をします。

約束するかどうか、どう書くかは、売り手と買い手の交渉で決まります。

誰に、いつ伝えるか

伝える順番は売り手が決める。幹部・キーマン、全社員、取引先の順。情報は少人数から

聞き手

社員には、いつ話すものなのですか。

アドバイザー

ガイドラインに、はっきりした記述があります。秘密を厳守して情報の漏えいを防ぐことは極めて重要で、社内の役員や従業員にも、知らせる時期や内容には十分注意する必要がある、としています。最終契約の前に、親族や幹部役員などごく一部の関係者にだけ極秘で知らせることはある。それ以外には、原則として可能な限りクロージング後、早くとも最終契約締結後に知らせるべきだ、という内容です。

聞き手

早く漏れてしまうと、どうなるのですか。

アドバイザー

ガイドラインは、取引先や従業員に意図せず情報が伝わったり、経営者が不用意な一言を発したりして、M&Aが頓挫するケースがあると書いています。さらに、伝わったあとに頓挫すれば、取引先の喪失や従業員の退職といった、従来の事業活動に支障が出るおそれがある、と述べています。

CAUTION

事業譲渡のときは、伝える時期に別の制約がある

  • ガイドラインは、最終契約後に知らせることを原則としている
  • 一方、厚生労働省の指針は、事業譲渡で社員の承諾を得るまでに十分な協議ができるよう、時間的な余裕をみて協議を始めることが適当としている
  • 二つをどう両立させるかは、譲り方と日程で変わる。弁護士と社会保険労務士に、早めに段取りを相談する

聞き手

買い手が会社を調べに来たら、社員に気づかれませんか。

アドバイザー

ガイドラインは、社内への情報開示をしていない場合、開示していない役員や従業員に悟られないように調査を実施する工夫が必要だと書いています。専門家の指示を守ることが重要だ、とも述べています。調べに来る人の名乗り方や日程は、事前に専門家と決めておく部分です。

聞き手

結局、売り手は何から決めればいいのですか。

アドバイザー

順番は次のとおりです。

STEPS

  1. 譲り方の見通しを持つ: 株式譲渡か事業譲渡かで、社員への手続きが変わる
  2. 最初に話す相手を絞る: 幹部やキーマンなど、話さないと案件が進まない人だけにする
  3. 全社員に伝える時期を、専門家と決める: 最終契約の前後、事業譲渡なら承諾に必要な協議の時間も含める
  4. 取引先への伝え方を決める: 社員と同様に、成約前の漏えいを避ける
  5. 待遇の希望を言葉にしておく: 雇用継続や処遇の希望を、買い手との交渉の前に整理する

聞き手

今日の話で、売る前に決めておくことが見えてきました。

アドバイザー

譲り方、伝える順番、待遇の希望の三つです。この記事の例は架空で、法律の個別の判断を示すものではありません。労働契約の承継や解雇、待遇の書き方は、弁護士と社会保険労務士にご確認ください。相談相手の選び方はM&Aアドバイザーを何で選ぶかに、人手不足を理由にした譲渡の判断時期は人手が足りなくて潰れる会社が過去最多になっているに書いています。

QUESTION

社員が最初にこの話を聞くのは、あなたの口からでしょうか、それとも噂からでしょうか。

FAQ

株式譲渡をすると、社員の雇用契約はどうなりますか。
中小M&Aガイドラインは、株式譲渡では譲り渡し側の法人格に変動はないと説明しています。雇用契約を結んでいる会社は同じままで、変わるのは株主です。個別の条件の扱いは、弁護士や社会保険労務士にご確認ください。
事業譲渡では、社員の同意がなくても雇用は移りますか。
厚生労働省の指針は、労働契約を譲り受ける会社に承継させる場合は、承継予定の労働者から個別の承諾を得る必要があるとしています。個別の事案への当てはめは、弁護士や社会保険労務士にご確認ください。
社員には、いつ話せばよいですか。
中小M&Aガイドラインは、幹部役員などごく一部の関係者を除き、原則として可能な限りクロージング後、早くとも最終契約締結後に知らせるべきだと記しています。事業譲渡では承諾に向けた協議の時間が必要になるため、日程は専門家と相談してください。
譲ったあとの給与や退職金は保証されますか。
譲渡契約で何を約束するかは、売り手と買い手の交渉で決まります。ガイドラインは、最終契約の主要な内容に経営者や役職員の処遇を挙げています。保証されるかどうかは個別の契約次第なので、弁護士や社会保険労務士、税理士にご確認ください。

SOURCES

公開 2026.10.20文 NEW ORDER JOURNAL 編集部

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