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M&Aの現場

人手不足倒産が過去最多の240件

人を理由にした譲渡の判断時期

IN BRIEF

  1. 人手不足倒産は2026年度上半期に240件で過去最多。理由は、人が採れないことより、賃上げの重さが目立つ。
  2. 倒産の95.4%は破産で終わっている。ただし、譲渡で防げたかどうかは、この統計からは分からない。
  3. 動き出す目安は三つ。求人が決まらない、中核社員が辞意を示す、賃上げ後に利益が残らない。
CONTENTS4の見出し
  1. 240件の中身を読む
  2. 人を理由に譲る会社は、どんな状態か
  3. 動き出す三つの目安
  4. 調べ始めるときの相談先

聞き手

「人手不足倒産が過去最多」というニュースを見ました。うちは従業員が15人ほどで、人は足りていませんが、すぐ潰れるほどではありません。この数字は、うちのような会社に関係がある話ですか。

アドバイザー

関係があります。まず数字の中身を押さえます。東京商工リサーチの集計では、2026年度上半期(4月から9月)の人手不足倒産は240件で、2013年の調査開始以降、年度上半期として最多でした。前年同期の205件を上回り、5年連続の増加です。ここでの人手不足倒産は、求人難・従業員退職・人件費高騰のいずれかが要因の倒産で、後継者難は含みません。

聞き手

帝国データバンクの数字も、同じように過去最多ですか。

アドバイザー

帝国データバンクは同じ期間で225件、4年連続の過去最多と発表しています。集計の範囲が違うので件数は揃いませんが、方向は同じです。この記事では、件数そのものより、その中身と、どの時点で譲渡を考え始めるかを書きます。

240件の中身を読む

人手不足倒産の年度上半期の件数

聞き手

件数のほかに、経営者として見ておくべき数字はありますか。

アドバイザー

三つあります。一つ目は理由で、人件費高騰が130件、前年同期比75.6%増でした。人手不足倒産の54.1%を占め、半数を超えています。人が採れないことより、人に払う賃金が重くなって行き詰まる会社が増えている、ということです。

アドバイザー

二つ目は規模で、資本金1千万円未満が159件、66.2%でした。三つ目は終わり方で、破産が229件、95.4%です。産業別では、サービス業他が91件、建設業が55件で、この2つで6割を占めます。

見る点 2026年度上半期(4〜9月)
人手不足倒産 240件(前年同期比17.0%増)
うち人件費高騰 130件(同75.6%増)、全体の54.1%
資本金1千万円未満 159件、66.2%
形態が破産 229件、95.4%
産業別 サービス業他91件、建設業55件、2産業で60.8%

聞き手

破産が95.4%ということは、会社が残る形で終わるケースは、ほとんどないということですか。

アドバイザー

破産は会社を畳む手続きなので、そうなります。ただ、言えるのはそこまでです。譲渡していれば助かったかどうかは、この統計からは分かりません。そもそも譲渡先があったのかも、この数字には出てきません。

CAUTION

この統計から言えないこと

倒産した会社が、事前に譲渡を試みたかどうかは調査の対象外です。「譲渡すれば倒産は防げた」とは言えません。数字から言えるのは、人の問題で行き詰まる会社が増え、その大半が破産で終わっている、という事実までです。

譲渡していれば助かったかどうかは、この統計からは分かりません。

人を理由に譲る会社は、どんな状態か

聞き手

人手不足を理由に譲渡を考える会社は、数字の上でどういう状態になっているのですか。

アドバイザー

架空の例です。従業員15人の設備工事会社で、売上2億円、粗利率30%、人件費7,000万円、営業利益1,000万円です。現場責任者が1人辞め、その分の受注を断った結果、売上が2割減ったとします。さらに賃上げを3%行います。

項目 現在(架空) 責任者退職と賃上げ後(架空)
売上 2億円 1億6,000万円
粗利(粗利率30%) 6,000万円 4,800万円
賃上げ3%分の人件費 なし 年210万円の増加
営業利益 1,000万円 約マイナス410万円

アドバイザー

黒字だった会社が、人が1人抜けて賃上げをしただけで赤字に変わります。これは架空の数字ですが、人件費の比率が高い会社では、同じ形が起こり得ます。

聞き手

赤字になる前に動け、ということでしょうか。理由も教えてください。

アドバイザー

理由は買い手の見方にあります。買い手は、利益と、その利益を生んでいる人を一緒に評価します。責任者が抜けたあとの数字は、抜ける前より低く見られやすく、赤字になれば値段の前に、引き継ぐ価値があるかが問われます。属人化が値段に響く点は、あなたの会社に値段がつかない理由でも書きました。

POINT

人の問題は、値段の問題になる

買い手が見るのは、決算書の利益だけではありません。その利益が、誰の仕事で成り立っているかを見ます。中核社員が辞めたあとに残る数字が、あなたの会社の本当の値段に近づきます。

動き出す三つの目安

動き出す三つの目安

聞き手

では、どの時点で動けばいいのでしょうか。

アドバイザー

公的な基準はないので、判断を整理するための目安として三つ挙げます。一つ目は、求人を出しても3か月ほど決まらず、受注を断り始めたとき。二つ目は、現場責任者や経理など、代わりのいない社員が辞意を示したとき。三つ目は、賃上げ後の営業利益が赤字か、ほぼゼロになる見通しが立ったときです。

聞き手

一つでも当てはまったら、すぐ会社を売るべきですか。

アドバイザー

そうとは限りません。譲渡は選択肢の一つで、価格の見直しや賃上げの原資づくりで持ちこたえられる会社もあります。目安に当たったときは、売ると決める時期ではなく、選択肢を調べ始める時期です。調べるだけなら、会社も社員も動かさずにできます。

STEPS

決算書3期分と、人件費の推移を並べる。人件費が売上のどれだけを占めているかを確認する。 辞めると困る社員の仕事を書き出し、他の人に引き継げるかを見る。 賃上げ後の営業利益を、控えめな売上で試算する。数字は税理士に確認してもらう。 公的な相談窓口に、譲渡も選択肢に入れた状態で相談する。

目安に当たったときは、売ると決める時期ではなく、選択肢を調べ始める時期です。

調べ始めるときの相談先

聞き手

最初に誰へ相談すればいいですか。仲介会社に連絡するのが早いのでしょうか。

アドバイザー

最初の相談先として、公的な窓口があります。中小企業庁によると、事業承継・引継ぎ支援センターは全国47都道府県にあり、事業承継全般の相談やM&Aのマッチング支援を原則無料で実施しています。東京の窓口は、第三者承継と従業員承継の相談を、秘密厳守で、全て無料で受けると案内しています。

聞き手

相談の内容によって、相談先は変わりますか。

アドバイザー

変わります。誰に何を聞くかを分けておくと、無駄がありません。

相談したいこと 相談先
譲渡を含めた選択肢の整理 事業承継・引継ぎ支援センター
賃上げ後の収支、決算の見方、税負担 税理士
賃金の設計、未払残業代、就業規則 社会保険労務士
譲渡契約、社員の雇用契約の引き継ぎ方 弁護士

CAUTION

税務・法務の判断は専門家に

この記事の試算は架空の数字による説明で、個別の会社の税額や法的な扱いを示すものではありません。譲渡の方法によって、社員の雇用契約の扱いも変わります。税務は税理士に、雇用や契約の法的な扱いは弁護士や社会保険労務士にご確認ください。

聞き手

仲介会社に頼む段階になったら、どう選べばいいですか。

アドバイザー

手数料の仕組みと、誰の利益を守る立場かで見ます。詳しくはM&Aアドバイザーを何で選ぶかにまとめています。まずは公的な窓口で選択肢を整理し、そのうえで依頼先を決めても遅くありません。

QUESTION

あなたの会社で、中核の社員が1人抜けたあと、来期の営業利益はいくらになりますか。

FAQ

人手不足倒産には、後継者がいないことによる倒産も含まれますか
東京商工リサーチの集計では、求人難・従業員退職・人件費高騰が対象で、後継者難は除かれています。
東京商工リサーチと帝国データバンクで件数が違うのはなぜですか
集計の範囲や定義が異なるためです。2026年度上半期は、東京商工リサーチが240件、帝国データバンクが225件で、どちらも過去最多でした。
人が足りない段階で譲渡を相談しても、会社は売れますか
売れるかどうかは会社ごとに違い、この記事では断定できません。まず公的な相談窓口で選択肢を整理し、税理士などの専門家にも確認してください。
事業承継・引継ぎ支援センターの相談は有料ですか
中小企業庁は原則無料としています。東京の窓口は、相談は全て無料と案内しています。

SOURCES

公開 2026.10.09文 NEW ORDER JOURNAL 編集部

会社の譲渡や譲受について、まだ誰にも話していない段階のご相談も承ります。

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