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事業開発

新規事業の資金計画は、なぜ3ケースで作るのか

IN BRIEF

  1. 資金計画は、補助金に通らない場合を先に作る。落ちても成り立つ事業だけが、制度の有無を選べる。
  2. 補助金は原則として後払い。採択は交付決定ではなく、実施中に立て替える額は補助の割合が違っても変わらない。
  3. 数字を確定する前に、相手に聞くことを決める。補助金の申請書類の作成代理は行政書士の業務で、私たちはしない。
CONTENTS6の見出し
  1. 1枚で答える、3つの問いと4つ目の欄
  2. 架空の事業で、3ケースを並べる
  3. 山場は、落ちた場合を先に見ること
  4. 補助金は後払い。つなぎの資金が要る
  5. 数字を確定するために、相手に聞くこと
  6. 申請書類の作成は、私たちの仕事ではない

聞き手

新しい事業を始めるとき、資金計画は一本で作ればよいと思っていました。なぜ、わざわざ3つのケースに分けるのですか。

アドバイザー

補助金などの制度に通るかどうかは、計画を作る時点では分からないからです。通る前提で一本だけ作ると、落ちた瞬間に計画の前提が消えます。ケースを分けるのは、制度が使えても使えなくても、始めてよい事業かどうかを先に確かめるためです。

聞き手

3つというのは、何と何でしょうか。

アドバイザー

制度を使わない場合、補助の割合が低い場合、高い場合です。この記事では補助の割合を3分の1と2分の1に置きます。数字はすべて架空の例で、実在の案件や取引先の数字は使っていません。

1枚で答える、3つの問いと4つ目の欄

聞き手

資金計画の1枚には、何を載せるのでしょうか。

アドバイザー

3つの問いに答える1枚にします。儲かるのか、資金はいくら要るのか、制度の有無で何が変わるのか。そして4つ目に、数字を確定するために相手に聞くことを置きます。

欄 答える問い 載せる数字
1 儲かるか 何年で回収できるか 回収年数、毎年の手残り
2 資金はいくら要るか 総額と、その出どころは何か 自己資金、借入、リース、補助
3 制度の有無で何が変わるか 3ケースで並べるとどうなるか 制度なし、補助の割合が低い、補助の割合が高い
4 数字を確定するために 誰に、何の原本で確かめるか 見積書、公募要領、契約書の該当箇所

聞き手

4つ目の欄は、何のためにあるのですか。

アドバイザー

計画はどうしても概数から始まります。概数のまま決めると、数字が動いたときに判断が崩れます。どの数字を、誰に、何の書類で確かめるかを、1枚の中に先に書いておきます。

聞き手

骨組みは分かりました。実際に数字を置くと、3ケースはどう違って見えるのでしょうか。

架空の事業で、3ケースを並べる

投資総額6,000万円の出どころ。制度を使わない場合は自己資金2,000万円と借入4,000万円、補助が3分の1の場合は補助2,000万円と借入2,000万円、補助が2分の1の場合は補助3,000万円と借入1,000万円

アドバイザー

仮に、投資総額6,000万円で、毎年の手残りが1,000万円の新規事業があるとします。業種は伏せた架空の例です。手残りは、借入を返す前の現金とします。借入は10年の均等返済で、利息と税は計算に入れません。補助の対象は投資総額の全額と置きますが、実際には対象外の経費があるので、これは簡略にした前提です。

項目 制度を使わない 補助 1/3 補助 1/2
投資総額 6,000万円 6,000万円 6,000万円
補助 0円 2,000万円 3,000万円
自己資金 2,000万円 2,000万円 2,000万円
借入 4,000万円 2,000万円 1,000万円
実質の負担 6,000万円 4,000万円 3,000万円
回収年数 6年 4年 3年
毎年の返済 400万円 200万円 100万円
返済後に毎年残る額 600万円 800万円 900万円

聞き手

補助が大きいほど、回収は早くなるのですね。どの列を基準に考えればよいのですか。

アドバイザー

計画の出発点は、制度を使わない列です。この列で、6年で回収でき、返済後も毎年600万円が残ります。補助が付く列は、その上に積まれる分です。

計画の出発点は、制度を使わない列です。

山場は、落ちた場合を先に見ること

聞き手

制度を使わない列を先に見る理由を、もう少し聞かせてください。

アドバイザー

補助金には審査があり、申請すれば必ずもらえるものではないからです。中小企業庁のポータルでも、補助の有無や金額は事前の審査と事後の検査によって決まる、と説明されています。通る前提で作った計画は、落ちた時点で前提が消えます。ここを、この記事でいちばん伝えたいところとして厚く書きます。

聞き手

「成り立つ」とは、どこまでを指すのでしょうか。

アドバイザー

私は3つを見ます。回収年数が、借入の期間や事業を続ける見込みの年数より十分に短いか。手残りから返済を引いて、なお現金が残るか。手残りが想定より下がったとき、どこまで耐えられるか。3つ目は、手残りを動かして確かめます。

POINT

制度を使わない列を、揺らして確かめる

先ほどの架空の例で、毎年の手残りだけを動かします。借入は4,000万円で、返済は毎年400万円です。

  • 手残りが1,000万円のとき: 返済後に600万円が残る。回収は6年
  • 2割減って800万円のとき: 返済後に400万円が残る。回収は7.5年
  • 半分の500万円のとき: 返済後に100万円しか残らない。回収は12年で、借入の10年を超える
  • 400万円まで下がったとき: 返済額と同じになり、手元に何も残らない 手残りが半分になっても、すぐには倒れません。ただし余裕は薄く、その先は計画を見直す場面です。落ちても成り立つかどうかは、手残りをどこまで下げても返済を続けられるかで見ます。

聞き手

補助が付く列なら、この余裕はもっと大きくなりますね。

アドバイザー

大きくなります。ただし、その余裕を足しているのは制度で、事業そのものではありません。制度を使わない列で薄すぎるなら、補助の額を待つ前に、投資額を減らす、段階に分けて投じるなど、事業の形を見直します。補助金をもらうために事業を作るのは、順番が逆です。

CAUTION

補助の額は、事業が終わってから確定する

国の補助金について定めた補助金適正化法は、事業の完了の報告を受けた後に、書類の審査などを経て、交付すべき補助金の額を確定して通知すると定めています(第15条)。申請のときの見込み額が、そのまま入金額になるとは限りません。仮に、見込んでいた2,000万円が1,500万円で確定すれば、差の500万円は借入か自己資金で埋めることになります。補助金は、入金されて初めて資金として数えます。

聞き手

手残りの1,000万円という数字そのものが怪しければ、この揺らし方も意味がなくなりませんか。

アドバイザー

そのとおりです。手残りは前提の積み上げでできていて、前提の置き方で変わります。数字の作りを検算する手順は収支シミュレーションをAIで検算するで扱っています。補助が付くケースでは、もう一つ、お金が入る時期も計画に入れる必要があります。

補助金は後払い。つなぎの資金が要る

補助金は後払いの流れ。採択、交付決定、発注と支払い、検査と額の確定と入金の順に進み、発注から入金までが立て替える期間になる

聞き手

補助が付くケースは借入が少なくて済む、という見方でよいのでしょうか。

アドバイザー

金額だけを見ればそうですが、時期が抜けています。補助金は原則として後払いです。中小企業庁のポータルは、事業の実施後に必要書類を提出し、検査を受けた後に受け取る、と説明しています。Jグランツのよくある質問にも、補助金は後払い(精算払い)だと書かれています。

聞き手

先ほどの例だと、補助が付いても資金は6,000万円要るということですか。

アドバイザー

事業の最中に立て替える額は、3ケースとも6,000万円です。補助の2,000万円や3,000万円は、検査が終わってから戻ってきます。それまでをつなぐ資金は、自己資金か、補助金が入ったら返す短期の借入です。制度によって概算払の仕組みがある場合もあるので、使えるかどうかは公募要領で確かめます。

STEPS

  1. 公募と申請。最新の公募要領を読み、必要書類を事務局に出す。
  2. 採択(内定)。結果は通知されるが、この時点ではまだ発注できない。
  3. 交付申請と交付決定。決定通知を受けて、補助事業が始まる。
  4. 発注と支払い。原則として決定通知の日付以降に行い、お金は自社で立て替える。
  5. 実績報告と検査。証拠書類を出して検査を受け、額が確定して入金される。

聞き手

採択の通知が来たら、すぐ発注してよいのですね。

アドバイザー

いいえ。中小企業庁のポータルは、採択の通知は「内定」の段階で、事業を開始することはできず、発注もできないと注意しています。原則として、交付決定通知書に記載された日付より前に、業者への発注や契約、支払いはできません。採択の通知は、お金を使ってよいという合図ではありません。

採択の通知は、お金を使ってよいという合図ではありません。

数字を確定するために、相手に聞くこと

聞き手

4つ目の欄に戻ります。具体的には、何を、誰に聞くのでしょうか。

アドバイザー

概数で置いた数字を、原本のある相手に確かめに行きます。表にすると次のとおりです。聞く相手と原本が決まっていると、計画の穴がどこにあるか分かります。

確定したい数字 聞く相手 確かめる原本
投資総額 見積もりを出す事業者 見積書の範囲、条件、有効期限
補助の割合、上限、対象経費 制度の事務局 最新の公募要領
補助金が入る時期、必要な手続き 制度の事務局 公募要領、交付規程
借入の金額、期間、返済条件 金融機関 提示された条件の書面
つなぎ資金の条件 金融機関 提示された条件の書面
手残りの前提(売上、費用) 事業の担当者 計画の根拠となる資料
補助金や借入の税務上、会計上の扱い 税理士、公認会計士 個別の確認

聞き手

概数のまま進めてはいけない、ということでしょうか。

アドバイザー

概数で始めるのはかまいません。決めるときに概数のままにしない、という意味です。確定の作法は3つに絞っています。

POINT

数字を確定するための3つの決まり

  • 原本で確定する: 見積書、公募要領、契約書の数字を使う。概数のまま、投資や借入を決めない
  • 再現してから指摘する: 相手の計算は、自分の手で同じ結果を出せてから、違いを聞く
  • 原文で確かめる: 制度は解説記事ではなく、最新の公募要領の原文で確かめる。回ごとに条件が変わることがある

聞き手

試算や点検には、AIを使えますか。

アドバイザー

使えます。分かったことと、分からなかったことを分けて話します。3ケースの表を組むこと、手残りを動かして再計算すること、相手の試算を再現して合わない箇所を探すことは、AIで速くなりました。分からないのは、見積書や公募要領の原本が示す数字が正しいかどうか、手残りの前提が現実的かどうか、そして事業を始めるかどうかです。

聞き手

表がきれいに出れば、原本と合っていると考えてよいのでしょうか。

アドバイザー

そうとは限りません。表の見た目と、数字の正しさは別の話です。原本と突き合わせる作業と、始めるかどうかの判断は、人の仕事として残ります。AIの使いどころと線引きは、AIに任せられる仕事と、人が判断すべき仕事でも扱っています。

申請書類の作成は、私たちの仕事ではない

聞き手

補助金の申請書づくりまで、手伝ってもらえるのですか。

アドバイザー

いいえ、申請書類の作成や申請の代理はしません。関わるのは、制度があるとき、ないときで、資金計画がどう変わるかという数字の側だけです。最終的に決めるのは経営者で、私たちが出すのは材料と選択肢です。

CAUTION

申請書類の作成は、行政書士の業務です

行政書士法第1条の3は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類を作成することを、行政書士の業務としています。第19条第1項は、行政書士でない者が、いかなる名目によるかを問わず、報酬を得て業としてこれを行うことを制限しています。例外の定めもあり、個別の場面での当てはまりを、私が判断することはできません。申請書類の作成や代理は行政書士に、税や会計の扱いは税理士・公認会計士に、契約の内容は弁護士に確認してください。

聞き手

最後に、この1枚を作る前に、何を決めておけばよいでしょうか。

アドバイザー

制度を使わない列で、始める判断ができるかどうかです。そこが決まれば、補助の割合が1/3でも1/2でも、その上積みを数字で比べられます。残りの数字は、4つ目の欄にある相手に、原本で確かめに行きます。

QUESTION

いま検討している新規事業は、補助金が1円も入らなくても、返済を続けながら続けられますか。

FAQ

新規事業の資金計画を、なぜ3ケースで作るのですか?
制度に通るかどうかは計画の時点で分からないためです。制度を使わない場合、補助の割合が低い場合、高い場合を並べ、制度が使えても使えなくても始めてよい事業かを先に確かめます。
補助金は、事業の前に受け取れますか?
原則として後払い(精算払い)で、事業の実施後に書類を出して検査を受けた後に受け取ります。採択は内定の段階で、交付決定の前に業者へ発注や支払いをすることは、原則としてできません。制度ごとの扱いは最新の公募要領で確かめてください。
補助金の申請書類の作成を、アドバイザーに頼めますか?
頼めません。官公署に提出する書類の作成は行政書士の業務です。資金計画に関わるのは、制度の有無で数字がどう変わるかという側までです。

SOURCES

公開 2026.10.13文 NEW ORDER JOURNAL 編集部

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