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実務とAI

契約書点検でAIが見つけたミスと見逃したミス

CONTENTS7の見出し
  1. AIが見つけやすいミス
  2. AIが見逃す・間違えるもの
  3. 法務省が示した線引き
  4. 実務での使い分け
  5. 基本情報まとめ
  6. 関連記事
  7. よくある質問

聞き手

最近、契約書のチェックにAIを使うという話をよく聞きます。M&Aの現場でも、契約書のドラフトをAIに読ませて点検するというやり方は、もう実際に使われていますか。

アドバイザー

使われています。最終契約書や覚書のドラフトをAIに読み込ませて、ひな形との差分やリスクの疑いがある条項を洗い出す、という使い方です。ただ、AIに任せていい範囲とそうでない範囲がはっきり分かれています。今日はその線引きを、実際に見つかるミスと見つからないミスに分けて話します。

聞き手

まず、AIは契約書のどんなミスを見つけてくれますか。

AIが見つけやすいミス

アドバイザー

このセクションでは、AIによる契約書点検が得意とする範囲を説明します。得意なのは、機械的に照合できる種類のミスです。

AIが見つけやすいミスと見逃しやすいミスを対比した図解

聞き手

機械的に照合できる、というと、具体的にはどういうものですか。

アドバイザー

代表的なのは、定義した用語のあとの使い方が揺れているケース、条番号の参照がずれているケース、そしてひな形と比べて標準的な条項が抜けているケースです。たとえば「甲」「乙」という定義が途中から入れ替わっている、といった見落としは、人が読むより先にAIが拾うことが多いです。

聞き手

人が見るより速いのは分かりますが、正確さはどうですか。

アドバイザー

この種の照合であれば、精度は高いです。理由は単純で、言葉と言葉の一致・不一致を比べているだけだからです。法的にどう評価するかという判断が入っていないぶん、間違えにくいということでもあります。

AIが挙げる論点は、買い手があとで調べて出てくるものと大きく重なります。ただ、出てきた一覧をそのまま相手に持っていくと事故になります。その論点をAIがどの角度から拾ったのかを、頼んだ側が分かっていないからです。聞き返されたときに、答えられません。答えられなければ、AIに任せたことはその場で伝わります。士業の方や経験のあるアドバイザーには、すぐ分かります。

聞き手

逆に、AIが見逃してしまうミスもあるということですね。

AIが見逃す・間違えるもの

アドバイザー

このセクションでは、AIが不得意とする範囲を説明します。不得意なのは、条項の意味を、この案件の背景に照らして評価することです。

聞き手

背景に照らして評価する、というのはどういうことですか。

アドバイザー

同じ表明保証条項でも、譲渡企業の事業内容や過去の紛争の有無によって、リスクの重さは変わります。AIは条文の文言は読めますが、この案件特有の事情まで踏まえた重み付けはできません。一般的な注意点は示せても、この会社にとって致命的かどうかまでは判断できないということです。

聞き手

新しい法改正があった場合はどうですか。

アドバイザー

そこも弱いところです。AIは学習した時点までの情報をもとに答えるので、直近の法改正や、まだ判例が固まっていない論点には対応しきれません。もっともらしい答えを返すこともありますが、根拠が古い、あるいは存在しない条文を挙げてくることもあります。

CAUTION

AIの回答をそのまま信じない

AIが「この条項は問題ありません」と断定的に答えても、それを最終判断として扱わないでください。条項の有効性や法的リスクの評価は、弁護士の判断が必要な領域です。

聞き手

そのあたりの線引きは、誰かが公式に示していますか。

法務省が示した線引き

アドバイザー

このセクションでは、公的な基準を紹介します。法務省大臣官房司法法制部が令和5年8月に公表した「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」という資料があります。弁護士でない者が報酬を得て法律事務を行うことを禁じる弁護士法第72条と、AIによる契約書点検の関係を整理したものです。

聞き手

契約書をAIに読ませること自体が、法律違反になり得るということですか。

アドバイザー

場合によっては、という話です。この資料は、ひな形とレビュー対象の契約書を比べて字句の相違点を機械的に表示するだけであれば、通常は問題にならないとしています。一方で、条項ごとに個別の法的リスクの有無や程度を判断して表示したり、具体的な修正案を提示したりする場合には、弁護士でない者が行うと弁護士法に触れる可能性がある、という考え方が示されています。

聞き手

つまり、AIが「ここは危ない」と言い切ってしまうこと自体、線を越えているかもしれないと。

アドバイザー

そのとおりです。だからこそ、AIの契約書点検サービスの多くは、差分や気になる箇所を示すところまでにとどめ、最終的な評価は利用者や弁護士に委ねる設計になっています。この設計は、法律を守るためだけでなく、実務的にも理にかなっています。AIの判断だけで契約書を確定させるのは、そもそもリスクが高いからです。

POINT

法律事務に該当しにくい例/該当しやすい例(法務省資料の考え方を要約)

  • 該当しにくい例: ひな形と契約書の字句の相違点を、意味を解釈せずにそのまま表示する
  • 該当しやすい例: 条項ごとの法的リスクの有無や程度を判断して表示する、具体的な修正案を提示する

聞き手

実際の実務では、AIと弁護士の役割をどう分けていますか。

実務での使い分け

アドバイザー

このセクションでは、実務での役割分担を説明します。AIは一次チェック、弁護士は最終判断という組み合わせが一般的です。AIに契約書を読ませて、標準的な条項が抜けていないか、定義や条番号にずれがないかを、まず機械的に洗い出します。

契約書ドラフトからAI一次チェック、弁護士最終確認へと進むフロー図解

役割 AI 弁護士
得意な範囲 定義・条番号の照合、ひな形との差分検出 個別の事情を踏まえたリスク評価、修正案の作成
対応できる情報の新しさ 学習した時点までの情報にとどまる 最新の法改正・判例を踏まえて判断できる
最終責任 負えない 依頼者との関係で負う

聞き手

この流れなら、時間もお金も節約できそうですね。

アドバイザー

節約になる部分は確かにあります。ただ、AIが見つけた箇所を弁護士が確認する時間は、ゼロにはなりません。特にM&Aの最終契約書は、表明保証や補償条項など、案件ごとの事情が色濃く出る条項が中心なので、AIの一次チェックだけで済ませるのは危険です。

STEPS

  1. AIに契約書のドラフトとひな形を読み込ませ、差分と気になる箇所を洗い出す
  2. AIが示した箇所のうち、定義・条番号のずれなど機械的に判断できるものをその場で修正する
  3. 表明保証・補償条項など、案件の事情に関わる箇所は弁護士に確認を依頼する
  4. 弁護士の確認結果を踏まえて、最終版を確定する

聞き手

AIに読み込ませる契約書自体の扱いにも、注意が必要そうですね。

アドバイザー

そこも重要な点です。契約書には取引先の名称や金額など、機密情報が含まれています。AIサービスに読み込ませる場合、その情報がどう保存・利用されるかを確認しておく必要があります。この点は利用するサービスごとに設定が異なるので、提供元に確認してください。

聞き手

今日の内容を最後にまとめてもらえますか。

基本情報まとめ

項目 内容
AIが得意な範囲 定義・条番号の照合、ひな形との差分検出
AIが不得意な範囲 案件の背景を踏まえたリスク評価、最新の法改正への対応
根拠となる公的資料 法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(令和5年8月)
関係する法律 弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
実務での位置づけ AIは一次チェック、最終判断は弁護士
最終確認の依頼先 契約条項の解釈・法的リスクの評価は弁護士にご相談ください

聞き手

契約書の中身以外にも、確認しておくべきことはありますか。

アドバイザー

契約に至る経緯や、相手方との交渉内容そのものは、AIには見えません。契約書の外側にある事情を一番知っているのは、当事者であるみなさん自身です。AIの点検結果を鵜呑みにせず、違和感のある箇所は必ず言葉にして、弁護士に伝えてください。

関連記事

聞き手

あわせて読んでおいたほうがいい記事はありますか。

アドバイザー

提示された数字を自分で検算する視点については、提示された株価は妥当なのかを読んでみてください。また、契約書のチェック体制は、依頼するM&Aアドバイザー選びとも関わってきます。M&Aアドバイザーを何で選ぶかもあわせてご覧ください。

よくある質問

聞き手

最後に細かい点をいくつか確認させてください。無料のAIチャットに契約書を貼り付けて聞くのと、専用の契約書レビューサービスを使うのとでは、何が違いますか。

アドバイザー

一番の違いは、入力した契約書の情報がどう扱われるかです。専用サービスは業務利用を前提に設計されていることが多く、機密情報の取り扱いについて説明が明記されています。無料の汎用AIに貼り付ける場合は、その情報がどう保存・学習に使われるかを、利用規約で確認してから使ってください。

聞き手

AIに点検させれば、弁護士に頼む費用は減らせますか。

アドバイザー

一次チェックの部分は減らせる可能性があります。ただし、M&Aの最終契約書のように、案件固有の事情が多い契約では、弁護士による確認そのものを省略するのは勧められません。費用を減らす対象は、弁護士に確認してもらう範囲であって、確認そのものではありません。

聞き手

AIが「この条項は一般的です」と言った場合、それは信じていいですか。

アドバイザー

「一般的な条項と似ている」という指摘自体は参考になります。ただし、それが今回の案件にとって適切かどうかは別の話です。似ている条項でも、金額や対象事業が変われば意味合いが変わることがあります。

聞き手

結局、AIを使う一番のメリットはどこにありますか。

アドバイザー

人が見落としやすい機械的なミスを、先に拾ってくれる点です。人の目を、案件固有の判断が必要な箇所に集中させられることが、一番の価値だと考えています。

SOURCES

公開 2026.09.14更新 2026.10.09文 NEW ORDER JOURNAL 編集部

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